uragawa Railway

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國鉄職員の休暇 ~後日譚~

「フラノラベンダーエクスプレス4号ジャック事件」収束から4日目の昼前、やっと事情聴取が終わった。長きに渡る聴取で疲労が溜まっていたのは自分だけではない。一緒に聴取を受けた白矢や、事情の説明のために管理局に缶詰めにされていた機動隊の宮原も同じである。長崎は白矢、宮原を誘い札幌観光をすることにした。拘束されていたとは言え札幌の滞在期間も延び、結果的には休暇も延長ということになった。明日の朝には札幌を発たねばならないが、今日中ならば問題は無いだろう。そういうことで道民2人に案内されつつ札幌を観光していた。
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やはり、最初に行くのは道庁、煉瓦で作られた大きな建物だ。東京駅とはまた違った雰囲気でアメリカンチックだ。
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時計台は、大きさこそ小さいものの元は札幌農学校の建物で歴史は深い。次に少し歩き大通公園へ行く、札幌の中心地と言えばやはりこの辺りだ。大通の真ん中には札幌テレビ塔が建ち、名古屋の栄町を彷彿とさせる。展望デッキの頂上まで登り札幌を一望するか迷ったが、腹が減って来たのですすきので札幌ラーメンを食べることにした。何だかんだ何度も北海道には来ているが、すすきので札幌ラーメンを食べたことはなかった。
美味しいラーメンを頂いた後は矢白を先頭に札幌駅方向へと歩き始める。道路の真ん中にある路面電車の停留所に辿り着いた。そこには『三越前』と書かれていた。「ここからどこに向かうんです」と白矢に尋ねた。「せっかくなので、札幌名物の市電に乗ってもらおうかと思いまして」白矢は答えた。鉄と鉄がこすれあう音がして反対側の線路に緑と白の電車が入って来た。「うわ~すごいですね~小さくてとってもかわいい」「電車とバスの中間の様なサイズがいいですよね!」世代が近い白矢と宮原が仲良く話していた。
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自分たちが乗る電車も来たようだ。さっきの車両とは違い白い帯が入っている。方向幕には『新琴似駅前』と書かれていた。「新琴似駅ってどこですか」「國鉄札沼線の駅ですよ。入社当時、ひったくりの現行犯を捕まえるときに降りました」宮原が言った。「え、えぇ。すごいですね、入社当時からひったくり逮捕とは」「あの時は札幌駅の駅員だったんですけど、その次の年から公安に配置替えされちゃいました」そんな話をしているうちにメロディーホーンを鳴らし、市電は走り出した。自動車の波に飲まれながら警笛を鳴らし進んでいく。「やっぱり風情がありますよね市電は」白矢はテンションが上がっているようだ。
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金属が軋む音が床下から響き札幌駅前の大きなカーブを曲がり、再び曲がる。市電はカーブを曲がり終えると國鉄ガード下へと潜った「あ、M101号だ」なにやら反対側からレアな電車が来たようである。「何か見えたんですか?」宮原が聞いた。「M101号は、親子電車と言って後ろに子供のように自走しない電車を引っ張るんですよ」「へ~そうなんですか、面白いですね。」どうやらとても珍しい電車らしい。確かに今乗ってる電車より古そうだ。というか、その程度しかわからない。「ちなみに札幌市電には連接車といって2両で1両扱いされる車両とかも普通に走ってて面白いんですよ。さっきの親子電車は1組しかいないんですけど・・・」「白矢さん、詳しいんですね」先ほどから思っていたが白矢は妙に詳しい。「実はこの近くの大学に通っててよく見てたんですよ」「もしかして・・・・」
そうして話している間に、列車は新琴似駅前に着いた。新琴似駅は高架駅で、一階の駅前にはコンビニがある。駅の反対側には空が赤く染まっている。改札を通り階段を昇ると、お馴染みの國鉄の気動車がとまっていた、慌てて車内に乗り込むことにする。札幌駅に近いためか3両編成では輸送力不足の様で、車内は混雑していた。新川、八軒と各駅に停車し桑園で函館本線と合流したらしく線路の上に架線が見える。「札幌駅に着いたら急行かむいで自分は帰りますね」白矢が言った。「そうか、俺は國鉄札幌ターミナルホテルに宿泊することになっているから札幌で降りるよ」
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列車は札幌駅の9番線に到着した。「急行かむいは7番線か」「じゃあ、見送ってから管理局に向かいますよ」せっかくなので白矢を見送ることにした。711系の急行かむいを前に白矢と別れを交わした。「フラノラベンダーエクスプレスでは助けてくれてありがとう」「いえ、こちらこそ長崎さんがいなかったら今頃どうなっていたか・・・。宮原さんも列車を止めて頂きありがとうございました」「いえいえ、國鉄の優秀な機関士のお陰です」「では、長崎さん、宮原さん。また会うことが会ったらその時は・・・」発車ベルが駅に鳴り響いた。「そうえいば白矢さん、じm・・・」宮原の声は最後の乗車案内に掻き消され、列車の扉は閉まった。白矢は扉の窓から手を振っている。こちらも振り返すがすぐに列車は駅から離れていく。
「長崎さん、管理局に行く前に少しお話いいですか」
 
國鉄札幌ターミナルホテルの25階、長崎が泊まっている部屋に目覚ましの音が鳴り響いた。目覚ましを止め、時間を確認してみると朝の4時半になっていた。すぐに支度を済ませ、日課であるジョギングを始める。事情聴取を受けている間は運動不足だったため。とても気持ちの良い朝だ。シャワーを済ませ、チェックアウトし札幌駅へと向かった。

午前6時の札幌駅には人は少ない、これから人が増えていく、そんな感じだ。通勤・通学客は7時ごろから増え、観光客は朝食を済ませた8時~9時台に増えてくる。「こんな時間に駅にいるのは長距離客くらいなものだろう」
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ピーンポーンパン『お待たせいたしました。間もなく4番線に6時36分発函館行き特別急行スーパー北斗2号が到着致します。危険ですので白線より下がってお待ちください』豪快なエンジン音を立て、スーパー北斗2号は滑るように4番線に入って来た。國鉄キハ281系、制御付き自然振子式を装備する特急形気動車だ。札幌~函館間を3時間半で走破する。列車に乗り込み、座席へと座る。非番だからこそ座れるが勤務中ならまず座れない。昨日までの疲れが残っているのか体がすごく重たい。
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『まもなく、五稜郭です。お降りのお客様は忘れ物の無いようお仕度ください。出口は左側です。お降りの際は足元にお気を付けください。五稜郭の次は終着函館です』これには流石に驚いた。3時間以上寝てしまうとは、おかげで長万部カニ飯も買い損ねたじゃないか。長崎は心の中で舌打ちをした。ふと窓を見ると五稜郭機関区が見える。
五稜郭駅を出るとアルプスの牧場が流れる。『まもなく、終着函館です。津軽海峡線江差線松前線をご利用のお客様はお乗り換えです。どちらさまも忘れ物のないようお仕度ください。なお、この先揺れることがありますのでお気を付けください。お降りの際は足元にお気を付けください。特にお子様連れのお客様は手を離さずにお降りください。改札口には進行方向前側に向かってお進みになり突き当りの通路を左側へお進みください。今日も國鉄線をご利用いただきましてありがとうございました。またのご乗車をお待ちしております。』『永らくのご乗車大変お疲れさまでした。次は終着函館です。出口は右側5番線の到着です。函館からお乗り換え列車ご案内いたします。津軽海峡線奥羽線経由特別急行スーパー白鳥20号新青森駅行きは降りました同じホームの向かい側6番線から10時21分。途中、木古内蟹田、青森の順で止まります。特急スーパー白鳥20号新青森行きは6番線から10時21分。江差線普通列車木古内行きは1番線から10時27分。七重浜久根別方面普通列車木古内行きは1番線から10時27分の連絡です。お降りの際、車内にお忘れ物なさいませんようお手回り品いまいちどお確かめください。チケットフォルダーご利用のお客様、切符のお取り忘れにもご注意ください。本日も國鉄線特急スーパー北斗2号をご利用くださいましてありがとうございます。またのご乗車お待ちしています。
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函館駅には5番線に到着し、向かいのホーム6暗線には黄緑の塗装を纏った國鉄789系が停まっていた。國鉄789系は青函トンネルを駆け抜けるスーパー白鳥専用の車両だ。6両か8両で通常は運行しており、本日は8両編成だった。函館駅売店に駆け込み鰊みがき弁当を買い、車内に入る。
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列車は動き出し上磯、茂辺地と北の大地を風のように駆け抜ける。木古内駅を発車し知内を通過すると青函トンネルへと入った。弁当を口に入れつつ、昨日の出来事を思い出していた。
 
 
「長崎さん、管理局に行く前に少しお話いいですか」そう言われて宮原と共に札幌駅の地下街へ来ていた。「長崎さんは、三角運転士が列車を降りてからどうなったかとかは知らないですよね?」「列車が暴走し始めたから事件中は存在を忘れていたが、確かに気になってはいた」「あの事件の時、犯人グループは砂川駅を出たタイミングで管理局に脅迫の連絡を入れていました。岩見沢駅には機動隊の待機場所と公安室の派出所があるので岩見沢駅で解決する予定だったのですが、不思議なことに列車は岩見沢駅に5分はやく着き、私を含めた公安室・機動隊のメンバーで突入の手はずを整えて突入しようと思った矢先に、列車は再び動き始めます。そして三角運転士が扉を開き出てきました。救護の者が近づいたら突き飛ばし走り始めます。私たちも追いかけたのですがとても速く、すぐに階段を駆け上がっていきますが、階段を昇った先にスーツを着た二人組の男性がいました。その方々は三角が追われている身なのを把握したらしく、三角に思いっきり背負い投げを食らわせました。そこで私の上司が三角を確保、以上が岩見沢駅での確保劇でした。後ほど聞いたのですが二人組は岩見沢駐屯地へ向かう自衛隊のお偉いさんだったとか」「三角は一応確保されていたのか、その後はどうしたんだ?」「管理局から連絡が入り、岩見沢第二機関区で出発準備を整えてあったDF51を緊急発進させ、函館本線は全列車を停止、私は岩見沢駅から他の機動隊員と共にDF51に乗り込みました。そのあとはご存知の通りです。そして、ここからが本題です。事情聴取をするうちにわかったのが今回の事件の犯人グループは國鉄の分割民営化を目指す組織のRJの構成員だということがわかりました。」「やはり、RJか。首都圏では機動隊に混ざり検挙に参加したことはあったから知ってはいたが、北海道でも活動を行っていたとは・・・」「前日から富良野入りして準備を進めていたとか。そして予想通り、三角もRJの一味だということがわかりました」「三角は國鉄職員の中に紛れたRJの構成員ということになるのか」「残念ながら國鉄職員の中にもいるようです。三角は失敗した時は岩見沢駅からオホーツク7号で撤退し女満別空港から逃走する予定だったようで・・・」「成功したら人質になってた運転士です。で済ませるってか」「ええ、恐らく」「國鉄の闇が垣間見えるな」
國鉄の中に裏切者が居たっていうのは考えたくなかった。もう二度と起きないでいて欲しい、そう願うのみだった。
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気づいたら列車は青森駅に着いていた。次の新青森駅で新幹線に乗り換えて東京駅へと向かうのである。とりめしを購入して「はやぶさ20号」へと乗車した。「東京駅へ着いたら大湊室長に挨拶しないとな・・・」結果的にだが休暇?が伸びたことは伝わっているはずだが顔を出した方がいいだろう。
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盛岡駅で「こまち20号」を連結して仙台、大宮、上野と走り抜け、陽が沈む前には東京駅へと着いてしまっていた。新幹線は速いなぁと改めて実感する。東京駅で降りると何故か五能が立っていた。機動隊の白い制服を着ている。「おかえり、國鉄の英雄さん。皆が待ってるぞ」「迎えに来たのか」「どうせ機動隊は緊急時以外は待機してるだけだからな。それより、お前と一緒に事件を解決したっていうのはどこかの私鉄の職員だってな、今時、度胸のあるやつもいるもんだ」「ああ、砂川鉄道の白矢っていう整備士と一緒に管理局で缶詰だったよ」「それはご苦労だった。あと、小耳に挟んだのだが銃をぶっ放したという女性公安隊員も居たとか」「宮原っていう札幌中央鉄道公安室のやつだったかな、スカウトでもするのか五能?」「そういうわけではないのだが。近々、北海道に行かされるかもしれないから現地からの応援にでも借りようかなと」「お前らしいな五能、昔から面白いのを見つけては手をかけるところが」「そうか?そんなつもりはないのだが」話をするうちに東京中央鉄道公安室の前まで来ていた。
扉を開くと隊員が集まり、一斉に敬礼してきた。そして、室長が呼んでいる。「ごくろうだったな長崎君。同じ東京中央鉄道公安室の隊員として誇らしいよ。皆、國鉄の英雄に拍手を」拍手の音が部屋中に響いた。
 
投稿日:2016年4月2日
 
*当記事は旧blogの記事の再掲載です。殆んど原文そのままで載せているため、拙い文、投稿日時点の予定等が載っています。ご了承下さい。
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